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QRコードを発明したのは、自動車部品メーカー大手の株式会社デンソーの子会社(現在は独立)である株式会社デンソーウェーブ(本社:愛知県)です。
当時、開発チームに所属していた原昌宏氏が中心となり、わずか2人のチームで開発は進められました。今や世界標準となったこの技術は、日本の自動車産業の現場から生まれたのです。
1990年代当時、自動車工場の生産ラインでは、部品管理にバーコードが使われていました。しかし、現場では大きな課題を抱えていました。
従来のバーコード(JANコードなど)は、英数字で最大20文字程度の情報しか記録できませんでした。しかし、自動車部品の管理には、より多くの情報が必要だったため、1つの部品箱に対して10個ものバーコードを貼り付け、作業員がそれを一つひとつスキャンするという非効率な作業を行っていました。
バーコードは英数字しか扱えないため、日本語の情報を直接記録することができませんでした。
現場の作業員から「もっと楽に検品作業をしたい」という声が高まる中、開発チームは「大容量の情報を格納でき、高速に読み取れる新しいコード」の開発に着手したのです。
出典: QRコードドットコム
QRコードの最も象徴的な特徴である、三隅に配置された四角い「ファインダーパターン」(切り出しシンボル)。実はこれこそが、高速読み取りを実現した最大の鍵でした。
この3つの四角があるおかげで、スキャナはQRコードがどの角度で、どこに存在するかを瞬時に検知できます。これにより、360度どの方向からでも安定した高速読み取りが可能になったのです。
また、白と黒のセルの比率を、印刷物で最も出現頻度の低い「1:1:3:1:1」にすることで、印刷された紙の文字などと誤認しにくいように設計されており、読み取りの安定性をさらに高めています。
デンソーウェーブは、QRコードに関する特許を取得しましたが、その権利を行使せず、誰でも無料で利用できるように仕様を公開しました。 これが、QRコードが世界的に普及した最大の理由です。
「自分が開発した技術を独占するのではなく、世の中の多くの人に使ってもらいたい」という強い思いを持っていました。もし、QRコードの利用にライセンス料がかかっていたら、これほどまでに世界中のサービスや人々に使われることはなかったでしょう。
この「オープン戦略」と、2000年代以降のカメラ付き携帯電話・スマートフォンの爆発的な普及という時代の波が重なり、QRコードは国境を越えて、世界中の人々の生活に欠かせないインフラとなったのです。
この偉大な発明は国際的にも高く評価されており、開発者の原昌宏氏を中心とするチームは、2014年に欧州特許庁が主催する権威ある賞「欧州発明家賞」の「ポピュラー・プライズ(一般投票部門)」を受賞しました。
出典: QR コード開発チームが日本から初めて欧州発明家賞を受賞
これは日本の発明家としては初の快挙です。世界的に最も権威のある科学技術の賞といえばノーベル賞が有名ですが、この受賞はQRコードが世界の人々の生活をいかに豊かにしたかの証明と言えるでしょう。
最後に、QRコードの発明に関する要点をまとめます。
一つの工場が抱えていた課題を解決するために生まれた日本の技術が、今や世界中の人々のコミュニケーションやビジネスの形を変えています。次にQRコードを使うとき、その背景にある開発物語を少し思い出してみてはいかがでしょうか。
QR WORLD(QRワールド) 編集部